夏の衣と価値ある無駄



こんばんは。

本日も不運なことに健やかなる青さが空を覆い、自然のもたらす試練を乗り越える1日でございました。

そういえば皆様ご存知でしょうか。
浴衣は別にそこまで涼しくないという事実を。

風鈴がちりんと空気を揺らす夕暮れ時、からんころんと下駄を鳴らしながら祭りに出かける様を思い浮かべると何処か涼しげな雰囲気がありますが、別に大して涼しくはございません。
普通に暑いし辛い。

当たり前ですが、短パンタンクトップorTシャツの方が普通に涼しいです。
短パン(ショートパンツ)じゃなくて、ロングパンツとなれば大差無いくらいかもしれませんけど、それでも同程度。

風通しがいいから涼しそうにも見えますが、それも気のせい。
隙間から風が通るより、肌を直接外に晒すほうが3倍くらい涼しいです。
そもそも風通し云々というのは"同じ面積の服と比べたら涼しい"という前提がそこにはございまして。はい。

ちなみに冬の浴衣は胸元、足、袖、とあらゆる隙間から風を感じます。
夏に恋い焦がれる風を存分に感じることができるのです。
冬に。

まぁ、死にます。
言葉を濁しても濁さなくても死にます。

半纏必須。
布団は恋人。
こたつは愛人。

もう10年ほど前になりましょうか。
ふと「和っぽいことしたい」と思い立ってから、浴衣を寝巻きとして着るようになりましたが、こういった現実を毎年例外なく味わっております。

そんな辛さを経ていると、ある程度気温変化への耐性が付きました。
それも家にエアコンや扇風機があるのですが、ここ10年は夏につけた記憶が無いくらいには。
(冬は手が動かなくなるので、作業中は何かしらの暖房器具をつけます)

しかし、耐性といっても、不快感を意識的に無視できるようになったという意味であり、生物としての進化を遂げたという意味じゃあございません。
やっぱり暑いものは暑いし、寒いものは寒い。

当たり前ですが、ちょっとやそっとの努力では肉体の縛りを超えられません。
日差しは相も変わらず無理です。
ふらつきもすれば干からびもします。

寒すぎるのも無理です。
心も身体も固まります。
こたつや布団という聖地を死守できる程度に。

こんなことばかり書いてると、「浴衣着るのをやめりゃいいのに」という疑問をぶつけられそうですが、これでもちゃんと続ける理由はあるんですよ。

風情だとか、気合の育成だとか、細かいところを考えれば色々ありますが、個人的には"日本っぽさ"がその一番の価値でしょうか。
具体的には、和的な文化を纏う自分になれること。
これは要するに心の充足ですね。

"人間は自分の持つリソースを糧として別の価値に変換する"というルールありますが、僕にとって浴衣を着るというのは「心」という価値を得る行為。
僕は幾ばくかの心や労力、金銭を対価として、異なる心を満たしているのです。

ただ、傍から観ればこんなもの無駄でしかないでしょう。
涼しいわけではなく、かといって暖かいわけでもなく、快適性には何も寄与するところなく、衣服としては適したものではない。
気を付けないと袖とかめっちゃ引っかかります。

でも、僕はそれを着ることで心が満たされている。
客観的な合理性を欠いた「無駄」から、心を満たすこと。

この"心の充足のために行う無駄さ"って、人間にとってはすっごく大事だなと思うのですよ。


僕は無駄には「価値ある無駄」「価値なき無駄」に分けるべきだと考えています。
2つを分ける基準は"自分にとって重要な価値を生み出すか否か"

もし傍から観て無駄に思えても、自分が重要視する価値を生み出すのであればそれは「価値ある無駄」だし、客観的にも主観的にも価値を感じないのであればそれは「価値なき無駄」です。

僕にとって「浴衣を着る」ことはこの価値ある無駄に該当しますが、ここで大事なのは客観的な無駄さの指標では測れないということ。

そもそも心っていうのは客観的な指標では無いですからね。
客観的にものを測ろうとすると、その項目は省かざるをえない。
そうするとどうしても心の充足という観点が失われていく。

なので、価値なき無駄は積極的に削り、価値ある無駄はある程度残す。
そうやって"心"部分のバランスを取っていくことは本当に大事じゃないかな、と

最近、改めてそういうことを思うわけです。

たぶん、これが心の豊かさを生み出す大きな要因となるものなのだと思います。
こういった"傍から観れば無駄に見えるようだけど自分にとって「価値ある無駄」"は安易に切り捨てず、心が必要とする限りはぜひぜひ大事にしてくださいませ。
自分のものも、もちろん他人のものも。


では今回はこんな感じで。
また次回お会いしましょう。

お付き合いいただき、ありがとうございました。


おまけ
余談ですが、個人的に浴衣に最適な季節は晩春と初秋です。
もしあなたが日頃から浴衣を着てみたいとお考え中の希少種であれば、その辺りの季節で初められることをおすすめします。
環境は僕の住む九州が基準ですので、誤差に関しては各自調べてみてください。

くれぐれも無茶せずお楽しみを。

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