一人遊びの偶然〜どんぐりと枝と物の怪と〜


日差しが陽気であれど、吹く風は涼しさを通り越して冷たさを覚え、
緑が最後の鮮やかさで山を彩り始める。
そんな中、どんぐりの見分けに戸惑う糸凪邑でございます。

ご存知ですか?
どんぐりって、ブナ科コナラ属の樹木の果実を総称する言葉らしいですよ。
つまり、公園で落ちている丸っこいやつや細長いやつの他に、面倒な下処理無しに食べられるシイの実や、なんとクリもその枠に入るのだそうで。

僕の中では、シイの実とかクリはどんぐりとは別個の何かでしたが、言われてみれば見た目はなるほど近い。
これは今年一の驚きやもしれません。

少しでも気になるお方は、こちらをどうぞ。

どんぐり図鑑「どんぐりを見分ける」
http://www.enyatotto.com/donguri/acorn/acorn.htm



で。

何故にいきなりどんぐりの話をしているのか、と。

まずはこちらをご覧ください。





なんて可愛い・・・。

この間どんぐりを拾ってたら出会ってしまったのですよ
いや、どんぐりを拾いに行ったわけではないんですけどね、台風の影響か、大量のどんぐりが道に転がっていたので、童心に返って拾ってみました。
その時こやつに出会ってしまったわけですが、ちょっと不思議なことがありまして。

今回はそれについて少々の余談を。

この間、ふと「火起こし」でもしてみようと思いまして。

といっても、キャンプでやるような意味ではないですよ。
"きりもみ式"や"のこぎり式"みたいな、原始的な方法で、です。

最近、サバイバルとかブッシュクラフトみたいな、自然で過ごす系統の動画をよく視てましてね。
日本のものだったらカメ五郎さんとか、海外のものであればキツネ氏Primitive Technologyなど。

どれも好きなチャンネルなのですが、特に最後の「Primitive Technology」。
ジャンルとしてはサバイバルというよりもブッシュクラフト寄りで、もっと言えばカルチャーとかヒストリーに近く、言葉通り「原始的な技術を現代で実践する」というものなのですが、これがちょっとした感動モノでして。
人の知識や歴史を感じることができて、新しい観方を与えてくれる素敵なチャンネルなのですよ。

で、その動画中ではいつも"きりもみ式"で火を起こすのですが、これがまぁ手際のいいこと。
きりもみ式についてWikipediaを見てみると、「熟練者は10秒ほどで火をおこす」みたいな記述はあるのですが、確かに早い。
流石に10秒とまではいきませんが―――というか、たぶんその早さで出来る人はそうそういないと思うのですが―――この方も30秒くらいで種火を生成します。

あまりにもスムーズに作るもんですから、「火ってそんな簡単に起きるのか?」という疑問が生じまして、んじゃあちょっと自分で試してみようかと。
その道具制作のため、家から徒歩30分ほどのところにある、半ば山に近い公園に行くことにしました。

一週間以上の悪天候の後、久しぶりの晴天日。
秋とはいえ日中の日差しは陽気で、日向を歩けば少々汗ばむ一日でした。

運動も兼ねて、出歩くことのめずらしい日中の散歩に出かけ、歩くこと半刻。
途中でブロック塀の上でじっと佇む大きなトノサマバッタを写真に収めたり、人様の家の熟れた渋柿の味を思い描いたりしながら公園に到着しました。

そしてまっすぐの枝を求め、適当に散策を開始。
5分もしない内に、枝ではなく地面に散らばったどんぐりを探す自分がおりました。

いや、何ていうか、木の実っていいじゃないですか?
響きにそそられるというか。
面倒な下処理をせねば食べられないとわかっていつつも、ついつい拾ってしまうものです。

ぶっちゃけ、枝:6、木の実:4くらいの割合で当日の目的を定めておりました。
食べられるのか否か、その種類もわからないまま、持参した袋が着々と重みを増していきます。
時々思い出したように枝を拾ったりしながら、主目的がすり替わる程度に淡々と拾い続けました。

しかし、やはり食べられるものは無いものか。
食べられるどんぐりで容易に拾えるものといえばシイの実。
小さい頃、祖父と一緒に拾ったことがあるので、形を判別することは出来ます。

そこからふらつくことしばらく。
シイの実はなかなか見つかりません。
袋の中にあるのはコナラばかり。
クリみたいな形のどんぐり―――後で調べたらクヌギだった―――は見つかったものの、丸っこくて可愛いらしいけどこれも食べられないだろうなぁとか思っていたら、自転車に乗ったおじいさんに遭遇。
ちょっとした雑談。
おじいさんは「サンヤソウカイ(たぶん山野草会?)」なるものの会員さんで、色んな所に出向いているとか。
ちょっと前にも大分のなんたら高原といったところに行ってきたそう。
で、話を聞くに、シイの実はまだ早いらしい。
おじいさんも少し見つけたとはいえ、時期にはもう2週間ほど待ったほうがいいだろう、と。
残念。

ご老人とお別れした後、もうちょい歩いて帰ろうかと、ふらふら歩き出す。
道はもう公園というより、山中の遊歩道や林道に近く、周りには背の高い木々が。
帰り道の途中、今回の主目的といえる枝を思い出したように拾いながらぽつぽつ歩いていました。

気付けば目の前には鳥居。
公園内にある神社の裏門にたどり着いておりました。

ついでにお参りでもしていこうかな、と思って足を上げようとしたところ、見覚えのあるものが足元に。
焦げ茶色に、小さく尖ったもの。

スダジイ。

思わぬタイミングで、探していたシイの実を発見しました。
そういやおじいさんはこっちから来たな、と思い出す。
なら、たぶんあの人もここで拾ったんだろうな、と。

ともあれ、目的の1つを見つけたので、収集を開始。
がさがさと落ち葉をかき分け、中腰のまま地面に視線を彷徨わせる。
なるべく虫食いを避けるように吟味・・・するのも面倒くさかったので、形の綺麗なものを片っ端から袋へゴー。
袋から鳴るじゃらじゃら、からからという音は大きさを増していきます。

ただ、ご老人の言っていたように、季節がまだ早いようで。
あまり数がありません。
小さい頃拾った時には、拾いきれないほどの数が地面に散らばっていたような気がします。

まぁ、食べきれない程あってもしゃーなし。
突然現れた茶色いカマキリからも「落ち着けよ」と言われているようでしたので、今回はおとなしく撤収することにしました。

と、その前にお参りを。
何度も来ているのにもかかわらず、祀られている神様を存じ上げておりませぬが、まぁ大体そんなものでしょう。
裏門からがさごそと失礼しました、というお詫びも兼ねて参拝。
ついでにお手洗いに水をお借りしました(順番が逆)。

これにておしまい。
目的であったどんぐりと枝を持って、表の階段を下り始めました。

すると、鳥居をくぐった辺りで何か聴こえてくるではありませんか。
「みゃーみゃー」「にゃーにゃー」と。


・・・。

・・・・・・・。

・・・・・・・・・なんと。


これは探さずにはいられません。

もふらねば、わしゃらねば。
心の底にある欲求の泉から溢れ出る使命感から周囲の探索を開始しました。

耳をすませ、何方から聞こえてくるのかを判別しようとします。
枝を探すよりも、木の実を探すよりも懸命に。
その日の内で最も神経を研ぎ澄ませていた瞬間です。

どうやら、この参道の途中から聞こえてくるようです。
一歩一歩、階段を降りていくにつれて大きくなっていく鳴き声。
近づいている事実に膨らんでいく期待。

何処だ・・・早く・・・

必死に参道脇の草むらや林に目を向け、そして思いもよらぬところで声の主を発見しました。

白く、ふわっとした身体。
人を危ない方向へ誘うみゃーみゃーという鳴き声。
小さな子猫が参道脇の朽木の幹からちょこんと顔を出していました。


・・・。

・・・・・・?

何で木の中にいんの?

疑問に思いつつも、斜面に生える木に近付いてみる。
地面から朽木までの高さは1mほどとはいえ、急斜面。
邪魔な茂みを踏み、笹っぽい植物を掴んで身体を幹へ引き付ける。
目の前には穴の空いた朽木。
顔を出す白い子猫。

うん。
錯覚じゃない。
とりあえず、変な姿勢で白猫と戯れる。
幸い避けられることはなく、にゃーにゃーみゃーみゃーと悶えるような声を上げる子型天使。

しかし、お主なんでこんなところに・・・。
子猫が顔を出す小穴から奥を眺めても光が入っている様子は無いので、この穴以外の入り口はなさそう。
どういうこっちゃとわしゃわしゃしていると、違うところからにゃーにゃーみゃーみゃーという声。

そんな馬鹿な、と茂みに目をやってみると、同じくらいの灰色の猫、そしてその背後に黒い猫。

・・・何と。
どんぐり(と枝)拾いに来たら三匹の子猫と出会ってしまった。

これも参拝の結果か。
ありがとう、名も知らぬ神様。

おまいさんの兄弟か?
そう確認しようとして木の穴に視線を返すとそこには白い姿は無く。

・・・おや?
やっぱり錯覚?
物の怪の類だった?
確認のために穴を覗き込んでも何も見えず。

とりあえず、近寄ってきた灰色のやつと戯れるため、斜面を下りて平地へ着地。
みゃーみゃー鳴きながら僕の方へ。
何という天使っぷり。
避けられるどころか、懐いてくる子猫。

ありがとう神社の神様(2度目)。
どんぐりとか枝とかどうでもいい。
我を忘れてじゃらしたり、頬を撫でたりしておりました。

時々、一緒に来た黒猫を気にするように、後ろを振り返りにゃーにゃーと。
そうかそうか、兄弟(?)が気になるかと思い、茂みに残る黒い奴の近くに灰色のを運んでみる。

やっぱり子猫同士の方がいいよな、うんうん。
と、寂しさを覚えながら見ていると、何故か僕の方に戻ってきました。


・・・。

もう一度、小さな身体を持ち上げて茂みに運んでみる。

戻ってきた。

・・・・・・。

いや、こっちに来てくれるのはありがたいんだけどね。

今度は黒猫を誘おうと、手を差し伸べてみる。
しかし、みゃーみゃー鳴くだけで、近づいてくる素振りはなし。

ふーむ・・・。

まぁ、無理にどうこうするもんでもないしな、と思い、灰猫としばらく戯れることにしました。
頬を撫で、首筋を掻き、背中を撫でる。

何と幸福な時間だ。
この充足感は今年一かもしれない。
こやつと出会うためにここに来たのかもしれない。
だとすれば、連れ帰るのが運命・・・

あまりの幸せに、そんなよくわからんことを考えてしまいましたが、獣は自然で生きるのがよろしと思い、苦渋の思いで甘い誘惑を振り払う。
これ以上遊んでいると無意識の内に連れて返ってしまうやもしれない。

そう思ったので、泣く泣くお別れの時間にすることにしました。

さっきと同じように、身体を抱えて草むらに下ろす。
腕を抱えて離さない灰色。
みゃーみゃー言いながら、愛らしい眼をこちらへ向ける。

く・・・・・・。

心を締め付けられながら、何度も繰り返し、腕や手に引っかき傷をいくつも作りつつ、離れた茂みへ下ろすことに成功しました。
黒猫のいるであろう茂みとこちらを見比べながら、小さな鳴き声を上げ続けます。

達者でなー。
強く生きるんじゃぞー。
また会える時を楽しみにしてるぞー。

遠くなっていく鳴き声を背に、どんぐりと枝の入った袋を手に、参道を下りて行きました。


―――下りようとしました。


その時、ふと思い出すことが。

木の中に何かいたような・・・。

参道のそばにある、朽ちて穴の空いた木。
近付いて視るも、もう声はしません。
ただ、何となく気になってスマホのカメラを起動、フラッシュを当てて中を覗き込んでみました。

ディスプレイに映るのは2つの点。

うん。
何かいた。

まぁ、当たり前ですね。
いくら神社とはいえ、そうそう簡単にオカルトじみたことが発生するわけがない。

でも、これだけ時間が経って出てないってことは、何かしらの理由で出られなくなっているのか。
モニターを見ても、幹の周りをぐるりとまわって探しても、他の穴は見つからない。
万が一を考えると、出してあげた方がよさそうです。

とはいえ、どうしたものか。
穴の中に手を入れることはできるけれど、見た感じ穴の深さはゆうに1m以上ありそう。
流石にそこまで伸びる腕は持ちあわせてはいない。
いや、そもそも人の腕は伸びない。

とはいえ他に方法も無し。
もしかしたら、白猫が賢ければ伸ばした手にくっついて登ってくるかもしれない。
そう考え手を突っ込んでみるも反応はありません。

んー・・・こいつは参った。
どうやったら、こやつを木の中から出せるのか。
ぶっ壊せればいいのだけれど、流石に鋸とか持ってきてないしなぁ、と木を触ってみると、ぽろぽろと崩れる部分が。
もしや、と手で穴の縁を掴んでみると、ばきっと音を立てて崩壊。
穴が少し広がった。
これならいけるかなと思いはしたけれど、流石に一人でやるのは重労働。
せめて何かしらの道具に出来るものなぞ無いものか・・・

そうして周りを見渡していると、参道の方から女の子たちの話し声が聞こえてきました。
どうやら参拝に来たようです。

よかった、ちょっと人でも呼んで来てもらおう・・・。

そう考え、声をかけようとした時、待てよ・・・と。


客観的に自分の姿を見てみよう。


参道脇の茂み、斜面に生えた朽木を半ば抱きしめているような格好の男。
普通に怪しい。
僕だったら7割方近寄りたくはありません。


案の定、背後の話し声が消えました。


・・・ごめん。なんかごめん。

無言で参道を上っていく女の子たち。


いやーつらい。
つらいけど、まぁ誰しもこういうことってあるだろ。それより猫を助けないとな。はっはっは・・・。

強引に頭を切り替え、とりあえずもう一回手を入れてみっかーと朽木に視線を戻すと、小さな白い顔がちょこんと。

「おまえ・・・何でもうちょい早く・・・」

思わずそう零してしまったけれど、こやつにいってもしゃーないので、とりあえず抱えて木の外へ。
斜面から降りる前にもう一度、と穴を確認してもやっぱり、他の出入り口は見つからず。

おまいさんどうやってここに入ったんだ?とその経緯に首をかしげつつ降りると、先ほどの女の子たちの声が戻ってきました。

そしてこちらを見て「あれ?猫ちゃん?」と。
思わず「そうなんだよ。あの木の中にこの猫がいてね・・・」と不審者じゃないよアピールをしようとしたところ、彼女らの手にはさっき別れた灰色の猫が。

「この子、参道にいて・・・」

早すぎる再会でございました。


それから灰色と白、2匹の子猫を引き合わせ「よかったねー」「もうはぐれちゃ駄目だよ―」「仲良くねー」といった言葉を残し、彼女らは神社の方へ戻っていきました。

まぁ、正直なところ僕にもこいつら兄弟なのかわからないし、何であの場所にいたのかもわからないけれど、仲良さそうにしているからきっとこれでよいのでしょう。
いつの間にか何処かへ行ってしまった黒猫とも一緒に、逞しく生きていってくれれなと思います。

そんなこんなで、どんぐり(むしろ枝)拾いに端を発した、3匹の子猫様たちとの出会いの話はこれにてお終いでございます。

今思えば、よくわからないくらいに面白い1日でした。
他人と会うのもいいけれど、最近はこうやって一人遊びをするのが非常に楽しく思えて仕方がない。

皆様も、人付き合いに疲れたらふらりと出歩いてみてはいかがでしょうか。
もしかしたら、こうやって愛らしい出会いがあったりするやもしれません?。

ではまた次回。

最後までありがとうございました。