愚者の雫


―――こっちにきて

ほら、そこ

ぽとぽと、って、岩壁の隙間から淡く光る雫が落ちてきてるでしょ?

ここだけじゃない

あっちにも、そっちにも

いろんな色のものが流れてるよね

これが"色の雫"

この雫をこうやって・・・器に溜めて、それを"雫石"へ精製するのが私達の仕事

「仕事」、っていうとちょっと違うか

これは「試練」



あなたもこの村で目覚めた時、"管理者"の人達に話を聞いたと思うけど、私達はね、「迷い人」なの

私達はもう死んじゃってて、魂がこれから向かう場所を見極めるための試練の場所

それがこの"カラクの村"

ここで私達がしなきゃいけないことは、こうやって色の雫を溜め、それを雫石に精製すること

それを続けることで、"楽園"って所に行ける



「精製」っていってもそんなに難しいことはしないよ

えーと・・・あ



ちょうど溜まったみたいだから実際にやりながら説明するね

雫石の精製に必要なのは、器に満たした色の雫と"自分の血"

まずこうやって適当な刃物で自分の指を傷つけて、そのまま器の中の雫に手を入れる



そうすると・・・ほら

色の雫が光り始めたでしょ

これが精製が始まった証



この状態でしばらく待っていると・・・光が収まって、結晶が出来上がる



こんなふうにね

はい、これが"雫石"

綺麗でしょ

色の雫の淡い光もいいけど、雫石は強いけど透き通った光で



・・・あ

ごめん

ちょっと落ち着くまで待ってて



・・・ふう

もう・・・大丈夫

言い忘れてたけど、雫石の精製にはとても負担がかかるの

手をつけた瞬間に「自分が引きずられる感覚」って言えばいいのかな?そういう感覚に襲われるんだ

これは精製が終わるまで続く

言ったよね

「試練の場所」って

その苦痛に耐えて、雫石を精製し続けることがこの場所で与えられる試練

色の雫はとっても強い物質だから、こうして一杯ずつ器に溜めて雫石に精製しないといけないの

聞いた話だと、それに耐え切れずに消えちゃった人もいるみたい

だから、石を作るときはほんとに集中しないといけない



この作業をどれくらい続ければいいかは人によってまちまちでね

個数で決まるわけじゃないし、時間で決まるわけでもない

数日で終わる人もいれば、一年以上続けても終わらない人もいる

いつ終わるのかわからないから、その時が来るまで毎日毎日同じことを続けないといけない

終わるときは、管理者の人が教えてくれる

その時になったら、お迎えが来るんだって

そうしたらこの村から「楽園」ってところに進むことができる



ん・・・辛くないの、って?

もちろん辛いよ

石の精製は―――ふふ、死んでるのにこう言うのも変だけど、文字通り命がけだしね



でも、これを放棄しちゃったら楽園に行くどころか、"虚無"ってところに落とされるの

そこでは石を精製するときの苦しみよりずっと辛い苦しみに合うんだって

それも、死ぬことができないまま、ずっと、ずっと

自分の心が壊れてしまっても、ずっと



昔ね、この村から出ようとした人がいたんだ

彼女はそれまでに何百個も石を作ってきてたんだけど

試練がいつ終わるのかわからないことに我慢できなくなったみたい

会うたびに「私達は騙されてるに違いない」って言ってた



その人は、ほら

あそこに境界線が見えるよね

あれを越えようとして、消えちゃった



そう

消えたの

着ているものも、彼女の身体も、何も残らずに

管理者の人は「虚無に落ちた」って言ってた

放棄しても、逃げ出しても駄目

私達がここから出るためには石を作り続けるしかないんだ



でもね

この間、管理者から言われたんだ

「もう少しだ」

って

だから、私はもう村から出られる



いつなのかは教えてくれなかったけど、きっとすぐだって

私はそう思ってる



もしかしたらあなたと次に会うことはないかもしれないけど

頑張って

先に楽園で待ってるから

また会いましょう













―――あれ・・・力が入らない

身体が消えて

あれは・・・管理者・・・?

そっか、これがお迎え

これでわたしも―――










「―――消滅を確認。精製者の補充を要請する」






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